谷川道子ブログ

東大大学院修了(ドイツ演劇)。東京外国語大学教授。現在、東京外国語大学名誉教授。

「佇まいの美学――詩集『流転』に寄せて」

残暑お見舞い申し上げます!

 あっという間に時が過ぎていきます。すでに7月も終わり近く、本来なら、夏休みでしょうか。

 梅雨が開けたのか、まだ残り梅雨なのか、毎日の寒暖の差も激しく、薄寒いと思った日に熱中症の予告、コロナ禍も3年目にして第7波に入ったっとか、入らぬとか、ロシアのウクライナ侵攻も、悲惨な映像を毎日目にしながら、何ひとつ停戦に向かう気配のなさに、気が滅入るばかりです。そういう中で、久しぶりにライナー・マリア・リルケの詩や、日本の現代詩に触れる機会を得ました。思えば、演劇関連ばかりで、詩をちゃんと読むのは久しぶりでした。ささくれ立って乾いた心に源泉の雫がしみとおっていくような思いがして、しばらくは、谷川俊太郎や白秋やリルケの詩も読み漁りました。大気の中の音が聞こえてくるようでした。

 実は、我が敬愛する師のドイツ文学者神品芳夫先生が、卒寿を期して詩人神原芳之の筆名で出された第2詩集『流転』の書評を「世界文学」誌に依頼されたことが切っ掛けでした。「世界文学会」は、1949年に世界の言語と文学を通して世界平和に貢献すべく設立された学会で、今は毎年2回の学会誌を、様々なジャンルで自由闊達に刊行しています。若いころ、私の処女作となった『聖母と娼婦を超えて~ ブレヒトと女たちの共生』も、この雑誌に連載して頂けることが契機となって、1986年に花伝社より上梓されました。ここしばらくはご無沙汰していましたが、思えば長い恩義とご縁です。

 神品芳夫先生とは日本独文学会の理事会のご縁で、いろいろにお付き合いさせていただきました。その先生が卒寿記念に第2詩集を出されて、その不肖の弟子が後期高齢者となって書評と称したエッセイを書かせて頂いた。これも長いご縁ですね。編集委員会の許可を得て、諸々の感謝をこめて転載させていただきます。