谷川道子ブログ

東大大学院修了(ドイツ演劇)。東京外国語大学教授。現在、東京外国語大学名誉教授。

『フジタの白鳥』

もうひとつ、昨年の成果としてぜひともご紹介させていただきたいのは、佐野勝也著『フジタの白鳥―画家藤田嗣治の舞台美術』です。

2015年12月の東京外語大学付属図書館主催の公開講演会「演劇という文化」、その内容もこのブログに転載させてもらいましたが、その時に触れた外語大の語劇プロジェクトにおいて、われらが片腕として頑張ってくださったスペイン語科OBの佐野勝也氏、その後、早稲田大学院に進学して博士論文を仕上げてその刊行を心待ちにしているさなかに急病で無念にも54歳で逝去。あの講演会の日が葬儀でした。前日のお通夜で、親しい友人で、何としても彼の思いを形にしてあげようねと立ち上がったのが「佐野勝也論文集刊行委員会」で、一周忌には間に合いませんでしたが、年明けの一月に上梓されました。

編集は、あの語劇本『劇場を世界に―外国語劇の歴史と挑戦』を同志のようにともに手掛けてくれた原島康晴氏、発行はエディマン+新宿書房、装丁も宗利淳一氏、宇野亜喜良氏が表紙に素敵な挿画も描いてくださいました。とても素敵な本に仕上がっています。

あの画家の藤田嗣治にこんな舞台美術の仕事があったのかという、これまでほとんど知られていなかったそういうフジタの側面を、日本ではほぼ初めて紹介する画期的な本で、その佐野さんの『フジタの白鳥』の書評での紹介もいくつか掲載されました。

4月7日号の『週刊読書人』では、演劇評論家・高橋宏幸さんが、そして4月8日の『日経新聞』では、三浦雅士さんが書評を書いてくださいました。

佐野さんの執念ともいうべき熱い思いと、それを支える皆の思いがしっかりとひとつの素敵な形になったなと、感無量です。そしてこれも佐野さんが思い篤く働きかけ続けてきた努力の成果なのですが、東京シティ・バレエ団が、2018年の3月に50周年記念公演として、藤田嗣治の舞台美術で『白鳥の湖』上演の情報をついにリリースしました。

佐野さんは亡くなってしまいましたが、こうして彼の情熱がマーチを続けていること、多くの方に支えられていること、彼の足跡を感じるとともに周囲の人たちの温かさを感じます。心から皆さんへの感謝と嬉しい思いをこめて、ここにお知らせさせていただきます。

 

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