谷川道子ブログ

東大大学院修了(ドイツ演劇)。東京外国語大学教授。現在、東京外国語大学名誉教授。

演劇の秋へのお誘い

芸術の秋、演劇の秋へのお誘い

 

9月になった途端に夏が秋に取って代わられたみたいな、夏好きとしてはちょっと待ってえ、の心境ですが、心地よい季節はご同慶の至り。そして芸術の秋、演劇の秋でもありますので、ちょっと劇場へのお誘いを! 

 もちろん9月10日初日の『三文オペラ』も、稽古や上演パンフその他の本番への準備たけなわなのですが、他にもたくさんのお勧めの舞台が目白押し。そういうなかで、ドイツ演劇絡みの作品を二つだけ…。

 

 ひとつは、東京演劇アンサンブルは60周年記念公演の第二弾として、9月11-21日に武蔵関のブレヒトの芝居小屋(元映画スタジオの面白い空間です)で上演される、三輪玲子訳、公家義徳演出のデーア・ローアー作『無実』。デーア・ローアーは、ドイツ語圏でブレヒトミュラー系譜を継ぐ(と私が思う)二人の女性作家の一人で、もう一方が、エルフリーデ・イエリネクだろう。イエリネクはノーベル文学賞を受賞し、すでにF/T(フェスティヴァル・トーキョー)での『光のない』(林立騎訳)の演出の競演など、日本でもかなり紹介受容されている。ともにポストドラマ的ドラマなのだが、その拓き方が、それぞれに微妙に決定的に違っていて、比較考察すると興味深い。ローアーは、三輪玲子さんが印象的な分かりやすい邦訳を論創社からいくつか、出されている。ローアー作『無実』は2003年の作品なのだが、どこか「フクシマ」をめぐる「罪」を先取りしたような問いかけがある。公家演出がそこをどう舞台化するか、楽しみ。

 

 もうひとつのお勧めは、東の演劇祭F/Tに対応(?)すると言われる、西のキョウト・エクスペリメント=京都国際舞台芸術祭。今年で五回目の開催で、その枠内で昨年もドイツから来日公演したShe She Pop.の新作『春の祭典』。このグループは1998年にギーセン大学の8人の女子学生で設立され、今は6人の女性と一人の男性で構成されているというが、メンバー全員の手による集団作品だ。2010年に横浜KAATで招聘公演した、『リア王』を素材にした『テスタメント』で日本でも一躍注目された。この公演は近刊の拙著『演劇の未来形』でも紹介しているので参照いただければ嬉しい。自分たちの本当の父親を起用して、自伝的な要素も取り入れて、老いのテーマでシェイクスピア原作ともいわば共同創作。今年は、ストラヴィンスキイの『春の祭典』を使って、その父親と子の問題を、母親と子の関係に展開・転回させるのだという。しかも、京都エクスペリメントとの共同制作で、日本初演。10月4日と5日の2公演だけ。ちょっとしんどいが、行かざなるまい、いざ京都へ、というところだろうか! 地点の三浦基演出『光のない』も再演されるが、10月18,19日では、二週間の滞在が必要? 迷うなあ。

ともあれ、演劇は出かけて自分で観るしかないのだ…。