谷川道子ブログ

東大大学院修了(ドイツ演劇)。東京外国語大学教授。現在、東京外国語大学名誉教授。

東京外語大のドイツ語劇と 出版会

 

東京外語大のドイツ語劇

 

11月20日から24日までは東京外語大の外語祭で、何よりの売り物は、26専攻語に分かれたクラスで、それぞれの専攻語での外国料理店と外国語劇が5日間にわたって提供・上演されることだろう。通称語劇GOGEKIは既に百年以上の歴史と伝統をもち、2004年に文科省から「特色ある大学教育プログラム 特色GP」に採択され、4年間の活動と成果は『劇場を世界に―外国語の歴史と挑戦』(新宿書房2008)にもまとめられている。僭越ながら教育的かつ資料価値も高いお勧めの面白い名著なので、ご笑覧を!

在職中はこのドイツ語劇にもほとんど携わってきたが、退職後、くも膜下出血の入院・手術・リハビリでしばらくご無沙汰していて、久しぶりにドイツ語劇を覗きに出かけた。

 2000年に府中の新キャンパスに移ってからも、かつては大教室を何とか工夫して上演空間にして凌いできたのだが、何とかちゃんとしたホールで語劇を上演できるようになりたいという積年の悲願が神様に通じて(願えば通じるものですね!)、2010年3月に、客席500余の最新設備を備えたプロメテウスホールと、それを中心にした複合施設アゴラ・グローバルまで竣工。2010年3月に退職した身は、その準備過程にはもろもろ携わったものの、語劇のホール上演をちゃんとした形で観るのは初めて。教室での最後の『魔笛』上演に関しては、拙著『演劇の未来形』でも最後に触れているので参照されたい。

 今年のドイツ語劇は、ケストナー作の『飛ぶ教室』。少し早めに着いたので、その前のヒンディー語劇『シャクンタラー』も覗く。5世紀ごろのインドで書かれた戯曲らしく、シンプルな王と王妃の恋物語。それらしくカラフルな衣装をふんだんに使って、舞台も木や森や林に印象的な照明で影絵ふうにし、数十名ほぼ全員参加で歌って踊っての達者な舞台。

 対してドイツ語劇はそういった装置はほぼ捨象して、内容と人間関係とドイツ語の言葉に集中。1930年代前半のドイツのギムナジウムの寄宿舎。有史以来いがみ合っている近くの実業高校との戦い。いがみ合い。捕虜を捕り合ったり決闘したり…その両者の対立が、衣装や態度やしっかりしたドイツ語の発音などで浮かびあげられ、最後は雪合戦で終わる。合間に様々なエピソードも絡みながら、何せ、どの語劇も80分というタイムテーブルが決まっている。どう台本をわかりやすく刈り込んで、楽しく舞台化していくかはいつも思案処。女子が男子学生を元気に演じるのも違和感なく、すっきりくっきりした若々しい青春群像劇になっていて大健闘だ。こういう満員御礼の立派な劇場で毎年「語劇」を上演できるとは何たる幸せかと、つくづく実感。どうぞ、若い語学力と演技力と最新設備のホールに支えられたけっこうハイレベルの東外大語劇を、ぜひ一度ご観劇を。

 この語劇には先輩同窓会がいつもたくさん観に来て下さる交流の場にもなっていて、私も退職以来のゲルマニア会の皆さんへのご無沙汰をお詫びする好機となった。

 

 東京外国語大学出版会

ただこの日は観劇後に、外語大出版会が無事に6周年を迎え、編集者の交代もあって、その祝いと拙著『演劇の未来形』の出版祝いの会を開いてくださることになっていて、編集委員会や縁の方々10人ほどで、楽しい嬉しい宴となった。

東京外国語大学出版会も大健闘中だ。すでに40冊近い刊行、最新刊は拙著と、見事な追悼論集『山口昌男―人類学的思考の沃野』。残念ながら非常勤職員の任期制雇い止め規則で、この間ずっと頑張ってこられた編集者の竹中龍太氏が5年目で大内宏信氏に交代することになったが、出版界の厳しい状況の中でのこれまでの外語大らしい素晴らしい研究活動成果の刊行業績を寿ぐとともに、大学出版会の灯火をこれからも負けずに輝かせ続けられるためにも、今後ともに、皆様、どうか一層のご支援を!